2016年11月25日金曜日

54年ぶりの雪の日に 波浮港@武蔵小金井

11月の東京都心に54年ぶりに降雪のあった今日は、武蔵小金井のこの店のことを思い出した。

 

 「波浮港」は伊豆大島南端にある、火口湖を海と繋げた天然の良港で、私も何度か訪れたことがある。お店のご主人の出身地だそうだ。東京都大島町は私の出身地である新潟県加茂市とは姉妹都市。で、こちらのお店の奥さんは新潟県見附市の出身で、加茂とは信越線で20分ほどの距離である。 以前お店を訪れたとき、奥さんは、「この歳になっても、雪が降るとワクワクするのよ。」と仰っていた。「軽妙」ということばを人にすると、こういう風になるのだろう、という感じのとても温かいお人柄だ。 ランチ(880円)のメニューには、さんまや秋しゃけといった定番の他に、「生本さめ」「赤尾鯛」「馬づらはぎ」と、そこいらの居酒屋ランチでは見かけないラインナップ。調理の仕方も、塩焼き、味噌焼き、ムニエルといろいろと選べる。

 

 先付の里芋ゆず味噌田楽、江戸野菜芯取り菜ともにしっかり手が加えてある。「生本さめ」のバター焼きにしたが、サクサクした歯応えのさっぱりとした旨さだった。

 

 ううむ、唸ってしまうほどの名店。2年ぶりくらいの訪問になったのは、明らかにもったいなかった。もっと頻繁に来ないと。 伊豆大島にもそろそろ行かないとな。


波浮港居酒屋 / 武蔵小金井駅
昼総合点★★★★ 4.5

2016年9月28日水曜日

全方位にこだわる店 平右衛門@東小金井

東小金井、名店ぞろいの良い街なんですけどね。あんまり知られていなくて残念だ。

「平右衛門」は素材の一つ一つにこだわる名店である。とくに醤油がすばらしい。兵庫県の「大徳醤油」から、加熱処理をしていない「生醤油」を特別に卸してもらっているという。「冷やしらーめん」(950円)を注文。



味はもちろん、ビジュアルも良いですねえ。自家製麺は歯応え、のど越しともにすばらしい。大盛サービスというのも感動的。この店のメンマは、密かにメンマ好きな私を納得させるメンマである。チャーシューも本当に美味い。

ただ、この辺は完全に好みの話だが、私は椎茸も大好きなんだけど、椎茸は甘くない方が良かったなあ。胡瓜はもう少し少な目で、茗荷は1,2欠片多めでも良かった。

ともかくも、たいへんけっこうなラーメンでした。


平右衛門ラーメン / 東小金井駅新小金井駅
昼総合点★★★★ 4.0

2016年9月23日金曜日

ただ、中華そばのために ひびき@府中

府中の名店「ひびき」はとにかく不便なところにある。なので、旨いのは十分わかっているのだが、府中在住の私もなかなか足が向かない。公共交通機関では、府中駅から、学園通郵便局経由・武蔵小金井駅南口行きの京王バスで、学園通郵便局バス停下車がよいであろう。

「特製中華そば」。



府中市では美好町の「ふくみみ」(この店は前ブログでは何度も取り上げた思い入れ深い店だが)と同じく、メニューを「中華そば」1種類にしぼって磨きあげてきた店。無添加・無保存料という。全粒粉入り自家製麺は香り高い。チャーシューの柔らかさ、味のしみ方は絶妙。スープも丸鶏・魚介の良いとこ取りで実に滋味深い。変なクセなどまったくない。いつまでも飲んでいたいくらいだ。具の1つ1つも素材選びから決して気を抜かない。タマネギが最良のアクセントになっていることに、今日ようやく気がついた。

名店ですねえ。

こちらの方が「ふくみみ」よりも老成した印象。ご主人も「ふくみみ」の店主より20歳ほど上に見える。が、店は「ひびき」の方が歴史が浅い。今年で6周年とか。 両者に優劣はなく、どちらも良店。

こういう店が2つも住む街にあるのは、幸せなことだ。


中華そば ひびきラーメン / 北府中駅府中駅国分寺駅
昼総合点★★★★★ 5.0

2016年9月22日木曜日

丸はつは言葉を誘い、血肝は筆を走らす 山もと@三鷹

新卒歓迎会で利用した。三鷹駅北口、職場から徒歩5分ほどのところにある「山もと」のことを、私はもちろんずっと前から知っていた。まもなく開店1周年。訪れる機会を、zuttoねらっていた。

店内はおしゃれ。だがそのおしゃれ度はちょうどよくて、これなら従来の焼き鳥屋に慣れた客層ともお互いにすんなりと打ち解け合うだろう。

まずビールを頼む。



「吉祥寺SESSION IPA」は文字通りの地元ビールである。突き出しは枝豆と肉味噌で、これなら同僚に合わせてビールにするのではなく、1杯目から日本酒にすべきだったと少し残念に思った。

そしてそれとともに出てきた鶏スープ。



今振り返れば、この1杯にこそこの店のすごさが凝縮されていた。

やや大きめの猪口に入ったこのスープ、最初は何かなと訝しんだ。が、中を覗けば、まずは黄金色が見た目に美しく、鼻を近づけ1口飲んでううむ、と吐息してしまった。これは旨い!「旨い」という単語は、このスープによって定義づけられるのではないかとすら思った。時間をおき冷ましながら、味の変化を楽しんだ。名店といわれる喫茶店で珈琲を飲むときのようにだ。

しかも、このスープがすごいのは、このサイズである。これだけ旨いものを、これ以上大きなサイズで出したら、おそらく客は、このスープの余韻でこの店の焼き鳥を味わってしまうだろう。そう、このスープは始まりに過ぎない。そして、この始まりによって、俺のトサカは鷲掴みとなった。

「おすすめの焼き鳥、七本コース」(1,280円)を注文した。

まずは「さび」。



軟らかい。

そして「丸はつ」。



丸すぎだろコレ!ハムッとかじると、ジュッと汁が出た。慌ててワイシャツに気を遣う。たいへん美味しい。

「つくね」と「せせり」。




前者は華奢、後者は豪快な外観で目にも楽しい。

この間に酒を「生酛のどぶ」の熱燗に切り替え、合わせて「とりわさ」もたのむ。





「ふりそで」の弾力を確認した後、コース最後の「血肝」。



これが凄すぎた。この「血肝」のスゴさは、ぜひお店で体験してほしい。ちなみに私は肝から血の出る心地がした。凄すぎちゃって。

追加でたのんだ「心残り」や「モッツァレラチーズのさび焼き」も同僚たちには大好評だった。もちろん私も満足した。




〆の「親子丼」も、もうお腹いっぱいですよ、という同僚の遠慮を軽くいなして注文した。



ここで食べずに最後に後悔したくはなかったからだ。

上司からは、「ここまで旨い焼き鳥屋は初めてだ」というお言葉をいただいた。そちらの方が、新卒の歓迎なんかより私にとってよほど実質的価値があることは言うまでもない。

いやすばらしい。感服いたしました。あなたが絶対に訪れるべき店だし、私もまた必ずや訪れるであろう。

今回「山もと」というこのすばらしい店に出会い、「食べログ」の記事を2年ぶりに書いてみようと決心した。この2年間もすばらしい店にたくさん出会ってきたので、こういう記事は今後はなるべく書くようにしようと思う。

焼鳥 山もと焼き鳥 / 三鷹駅
夜総合点★★★★★ 5.0

2016年8月16日火曜日

天・地・人が交差する ~下諏訪探訪④~


根津八紘美術館」。どこかで聞いたことのある名だなと思ったのだが、産婦人科医として有名なだった。そういえば彼の医院は「諏訪マタニティークリニック」じゃん。1階のジェラート屋さんに興味があったんだけど、混んでいたので遠慮した。



日本電産サンキョーオルゴール記念館「すわのね」は、時間の都合上前を通過したのみ。


「食祭館」で「食べ歩きチケット」のシール3枚を使って「八ヶ岳牛乳ソフト」と「りんごジュース」。チケット500円に対し、200+200+360円=760円分を購入したことになり、元を取った。



ハーモ美術館」は諏訪湖畔に立つ。アンリ=ルソーやグランマ=モーゼスといった「素朴派」の作品を中心にコレクション。マティスやルオー、シャガールの作品も展示してある。「素朴派」は3年前に世田谷美術館で展覧会を見た。とてもすばらしくて印象に残っている。ここのコレクションも大したものだし、見せ方や建物自体も興味深い。


諏訪湖。糸魚川・静岡構造線と中央構造線が近くで交わる日本のへそ。


ヤツの姿は見えず。しかしうまいこと山の切れ目があるものだね。


夕食は湖畔の「あかり」

「御湖鶴」は地元・下諏訪のお酒。「みこつる」と読むそうだ。読めねえよ。

でもこの酒が本当に美味い!久しぶりに日本酒飲んで仰け反った。





「あかり定食」(2600円)を注文した。小鉢4皿とサラダ、それにメインとデザート付き。この日のメインは生姜焼き。ううむ、生姜焼きかあ・・・・・・。生姜焼きは驚くほど美味いものは想像できず、この店のも期待値の範囲内だった。他のメニューを試せば良かったなあ。



まあ、この日はたまたま巡り合わせが良くなっかったようだが、良店には違いない。


Googleマップを頼りに駅へ。が、この「現代の巫女」に道とは思えぬ道を歩かされる。しかも下諏訪駅の出口のない方に誘われ、5分間かなりの勢いでダッシュして何とか終電の2008発に乗ることができ、家路に就いた。

天・地・人が交差する ~下諏訪探訪③~



昼食はここ、「神楽」で。


おにぎりセットである「神楽御膳」と、卵かけご飯である「みすゞ御膳」があるが、「神楽御膳」にした。

メニューの隣に写っているのは、「万治の食べ歩きチケット」(500円)で、いろんな店でシールの枚数に応じてサービスが受けられる。既に1枚使ってあるのは、レンタサイクルである。この店に来る前にすぐ近くにある「儀象堂」に返却した際に使った。1枚で2時間無料。秋宮周辺には、観光スポットが徒歩圏内に集中しているので、自転車はこれ以上は不要だ。ちなみに、下諏訪全体でも観光スポットは狭い範囲にまとまっており、観光協会では主要部は徒歩で99分で回れると案内している。


他にも一品メニューがあるのでいくつか頼む。



のっぺいは冷やし汁。美味しいけど、やはり新潟の実家のものにはかなわないかな。実家も割烹を営むプロの味だからなあ。



「食べ歩きチケット」のシールを使って玉子焼。


ワカサギの唐揚げ。


地ものトマトと酢玉ねぎ。私は密かにトマト嫌いなのだが、ここのトマトは旨かった。



総じて満足のいくお店でした。こんなものが飾ってあった。



続いて下諏訪町立歴史民俗資料館。



宿場民家が保存されている。


下諏訪町の公的建物にはこのように観光客が自由に休憩できるスペースが整備されているところが多い。


体重111kgの私が乗ると確実にやばいな。というか、2階にあがるのも大丈夫なのか、床が抜けないかと、古民家では常に心配する。




青塚古墳は諏訪地方で唯一の前方後円墳だそうだが、墳丘の保存状態は良くない。


「今井邦子文学館」はその名の通りの施設。


今井邦子は大正・昭和期の歌人。アララギ派の島木赤彦(彼も下諏訪出身)に師事し、島木の死後は1936~48年に女性だけの歌誌『明日香』を主宰した。


この文学館は、江戸時代の茶屋で、邦子が育ち、『明日香』の編集所となっていた建物を修築・復元したもの。


邦子夫婦の写真。夫は戦前の立憲政友会所属の衆議院議員・今井健彦。なかなかの美男美女に見える。とくに邦子はどの写真を見てもかなりの美貌だ。


邦子は立憲政友会の機関誌『中央新聞』の記者だった経験を持つ。夫とはそこでつながった。


高村光太郎とも縁があるようで、彼は写真のような彼女の彫刻を制作したようだ。実物はどこにあるんだろう?



遺品からはそれなりに裕福な暮らし向きが伺える。


一通り見学した後、ここの管理をしている男性と話す。歴史民俗資料館やここのように、下諏訪のところどころに残る歴史的な建物は、町が買い取り保存しているそうだ。普段は彼のようなシルバー人材センターから派遣された方が管理しているとのこと。ただし、今井邦子は町でも知る人は多くなく、ましてや全国的にはほとんど忘れ去られた存在なので(私も知らなかった)ここは訪れる人は少ないとのこと。下諏訪は上諏訪に比べると観光開発が進んでいないので、観光客数ではやはり後れをとっていると。

私は、観光的に見てもとても良い町だと思いますけどねと、決してお世辞ではなくそう言った。実際、観光客への気の遣い様は、レンタサイクルにしても町内各地の休憩所にしても、決してうるさすぎないが、しかし良く行き届いている。

「この町は山里だけど、各時代ごとにさまざまな顔を見せる、おもしろい場所なんですよ」と彼は言った。これもまたその通りだ。ついでに言うと、歴史だけでなく、地理的にもおもしろい場所である。そう私が話を振ると、そうそう、和田峠とかね、とのお答え。和田峠は下諏訪町の北東にあり、ここで取れる黒曜石が石器の材料として縄文時代に広く流通していたことで知られる。和田峠の名がすんなり出てくるあたり、男性は教育関係者だったのかもしれない。こういう場合、適度に質問するのは相手も喜んでくださるが、あまり細かい質問をすると相手を困惑させてしまうので気を遣う。が、もっと突っ込んでも良かったかもしれない。